【医療事故による損害賠償事件】

解決事例①……バリウム検査での死亡事故事件

この事案は,79歳の方の検査入院において,バリウムを大腸に注入するレントゲン検査(注腸検査)に際し,穿孔が生じ(腸壁に孔があくこと),バリウムが腸から漏れたことによって死亡した事案でした。

遺族が医療行為に対し不満を抱き,病院に掛け合いましたが,病院側は誠実な対応をしませんでした。

受任し,証拠保全の申立てをしてカルテ等を入手し,協力医と相談の上で提訴しました。

裁判では,他の疾患またはその依頼主の体質による穿孔か,それとも,医師の過失による穿孔であるのかが争われました。

この事案は,正当な医療行為と過誤との境界線にあり,困難な事案でした。

しかし,判決は,医師の過失行為,過失行為と依頼主の死亡との間の相当因果関係を認めました。

この判決は大手新聞社や報道番組等の複数の著名なマスメディアに取り上げられました。判決後,マスメディアをご覧になった方が,同様の相談に来られました(解決事例②)。


解決事例②……バリウム検査での死亡事故事件

解決事例①のマスメディアの報道をご覧になった方が,そのお母様が,同様の問題で死亡したとのことでした。ご相談の上で,受任しました。

この事案では,お母様は,病院に入院後,同病院の腹水検査で癌のステージ5であることが判明していました。その癌の原発場所を調査をするために,バリウムによる直腸検査をしましたが,その際に穿孔が生じました。

解決事例①と同様に,証拠保全の申立てをしてカルテ等を入手し,協力医と相談の上で提訴しました。

この事案も,解決事例①と同様に,正当な医療行為と過誤との境界線にあり,困難な事案でした。

裁判所は,医師の過失行為は認めましたが,癌のステージ5であったため,死亡との間の因果関係の認定は難しいとのことで,和解を勧めてきました。

その結果,500万円を支払う勝訴的和解に至りました。 

高齢者の医療過誤事件は,逸失利益の請求が困難なため,請求額が低くなる傾向があり,本件でも当初の請求額は約1400万円でした。

その中で,500万円の和解額を認めた和解は,勝訴的な和解といえます。

この事案の当時は,解決事例④でコメントする「相当程度の可能性の法理」が確立されていなかった時代でしたが,かかる判例法理の先駆け的な判決になったと考えております。


解決事例③……医師による気管カニューレの抜管に過失を認めた事例

小脳出血を繰り返し,病院に入院した時には既に寝たきりで認知症が進んでいた女性の夫の依頼による事件でした。

同病院の医師が,某月13日に挿入している気管カニューレを親族の同意を得ずに,早すぎる時期に抜管したことにより,呼吸不全に陥り,約2ヶ月後に死亡した事案です。

提訴前は,過失行為の立証が困難とも予想され,提訴するかどうか悩ましい事案でしたが,遺族である夫の強い意向により,提訴に踏み切りました。

判決は,気管カニューレの抜管基準について詳細に検討した上で,医師の過失を認めました。


解決事例④……末期肝硬変患者について,主治医の生体肝移植のインフォームド・コンセントの不実施または説明義務違反の過失を認めた事例

本事案では,主治医は当初の病院(A病院)及び転職先の病院(B病院)で,末期肝硬変の患者さんに対し,生体肝移植を一切念頭に置かずに治療を継続していました。

その後,患者さんの肝硬変の悪化による容態急変後に,A病院に救急搬送され,同病院の副院長が主治医となりました。

同副院長は,容態が安定すれば生体肝移植をするための準備をしており,提供予定者は患者さんの息子さんでした。

しかし,患者さんは容態が安定する前に死亡しました。

そこで,同副院長が遺族とともに私どもに相談に来られました。

証拠保全の申立てをしてカルテ等を入手し,同副院長(協力医)と相談の上で提訴しました。

判決は,生体肝移植の存在を前提に重篤な肝硬変について検査・診断・治療等に当たることが,病院に要求される医療水準であり,主治医の過失の基準としての医療水準でもあると認めた上で, 当人や遺族に対して生体肝移植についての言及を一切しなかった主治医には説明義務違反の過失があると判断しました。

その上で,同説明義務違反と患者さんの死亡との間に相当因果関係は認められないものの,死亡時点において患者さんが生存していたであろう相当程度の可能性があるとして,合計480万円の損害賠償請求を認めました。

「相当程度の可能性の法理」とは,最高裁平成12年9月22日判決が認めた判例法理で,死亡と医療過誤の因果関係が立証できない場合でも,適切な医療を受けていれば, 死亡時点では生存していた相当程度の可能性があれば,賠償義務を認めるとの法理です。

かかる法理による賠償額の相場は,約200~300万円と言われていますが,本事案ではそれを大幅に上回る480万円の賠償額が認められました。

この判決は,類似先例の見当たらない新しいケースについて,いわゆる「相当程度の可能性の法理」で賠償義務を認めたものとして,下記のとおり,多数の著名公刊物に登載されております。

判例時報2116号97頁,医療判例解説39号2頁(2012年8月号),池田健次・医療判例解説39号7頁(2012年8月号),川﨑富夫・年報医事法学 27号143頁,医療訴訟判例データファイル(説明義務)。