業務内容 -国際民事事件

【知的財産事件】

解決事例①……営業秘密侵害による差し止め請求を棄却した事案

日本の化粧品メーカーP社が,アメリカロサンゼルスのA社のブランド・技術を,

5億円で買い取り,日本各地のデパートで,約15店舗の眉トリートメントサロンを始めたところ,

P社で同事業の中心となって働いていた女性甲,乙が,会社に対する不満から,P社を辞め,

R社を設立し,東京の表参道と銀座で眉トリートメントサロンを始めた事例です。

P社は,大阪地裁で,甲,乙,R社らのサロンでの施術の差止等を求め,又,アメリカのA社も,

R社と甲,乙並びに数人の従業員に対し,アメリカで,不法行為を理由に施術の差止と約1億7000万円の損害賠償の訴訟を提起しました。

また,P社は,甲,乙に懲戒事由があるとの理由で退職金の支払いをしませんでしたので,

甲,乙は退職金の支払いを求める裁判を大阪地裁に起こしていました。

私どもが事件を受任した時には,前任の弁護士の下,大阪地裁で,P社が求めた差止請求が認められ,甲,乙の起こした退職金請求は敗訴に終わっていました。

また,アメリカの裁判については,前任の弁護士が,放置しておいてもかまわないとの無責任なアドバイスをしたため,アメリカで敗訴判決が確定し,東京地裁で強制執行の認容を求める訴訟が進行している状況でした。

私どもは,大阪での差止訴訟については,大阪高裁で,多数の文献を証拠として提出し,

アメリカのA社の技術に,格別,営業秘密などないこと,P社の営業秘密は,日本人の顔に合わない

A社の眉型を使いながら,どのようにごまかして日本人の顔に合った眉トリートメントをするかに尽きる,R社はR社の眉型を使っているのでそのようなごまかしをする必要もなく,

営業秘密侵害はないと主張しました。

大阪高裁は,この私どもの主張をそのまま認め,逆転勝訴判決を得ることができました。

退職金請求事件についても,P社の営業秘密の侵害は否定し,ただ,P社退職前にR社を設立した点に問題ありとの理由で,退職金の半額を認める逆転勝訴判決を得ました。

これらの判決は,最高裁まで争われましたが,大阪高裁の判断が維持されました。

東京地裁での強制執行認容訴訟については,【国際裁判管轄にかかわる事件】解決事例②でご紹介致します。


【国際裁判管轄にかかわる事件】

解決事例①……【外国人同士や外国人との離婚事件】の解決事案③の事案

私どもは,最高裁判所平成8年6月24日判決の「離婚請求訴訟において……被告が我が国に住所を有しない場合であっても,原告の住所その他の要素から離婚訴訟と我が国との関連性が認められ,

我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは,否定し得ないところであり,どのような場合に

我が国の管轄を肯定すべきかについては,国際裁判管轄に関する法律の定めがなく,

国際慣習法の成熟も十分とは言い難いため,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。

そして,管轄の有無の判断に当たっては,応訴を余儀なくされることによる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが,他方,原告が被告の住所地国に離婚訴訟を提起することにつき法律上

または事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し,離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない。」との判断を引用し,詳細な上申書を提出し,日本における裁判管轄を勝ち取っています。


解決事例②……営業秘密侵害を認めた米国判決の執行認容訴訟(最高裁平成26年4月24日判決)

この事案は,眉型とワックスを使った眉のトリートメントに関する事案です。A社の眉型とワックスを使用した眉トリートメントは,アメリカのビバリーヒルズで大変な人気を得ていました。

そこで,日本のP社が5億円を支払い,A社のブランド及び技術を導入し,各地のデパートにサロンを開設しました。ところが,その導入に関わった担当者甲・乙が,P社に対する不満などでP社を退社し,自ら,R社を設立し,眉型とワックスを使った眉のトリートメントのサロンを開業しました。

P社は,R社及びその取締役甲・乙らに対し,大阪地裁に,営業秘密侵害を理由に,損害賠償と技術使用の差し止めの訴訟を起こし,また,A社も,アメリカで,R社及びR社の取締役らに同様の裁判を起こしました。

大阪地裁・高裁の事件については,【知的財産事件】において解説しています。

ここでは,A社提起のアメリカでの訴訟について解説します。

   

A社提起のアメリカでの訴訟については,R社らは,私どもの前任者のアドバイスの下,欠席し,判決が確定しました。

A社は,アメリカの確定判決の執行を東京地裁に求めてきました。

⒜ 執行認容の一般論

外国の判決は,民事訴訟法118条1号ないし4号の要件があれば,わが国での強制執行が許されます。

上記要件さえ認められれば,当該外国判決の再審査は認められていません(現民事執行法24条4項)。当該外国判決を再審査することとなれば,外国判決の執行認容という法制度が意味がなくなるからです。

民事訴訟法118条の要件のうち,1号は「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。」を挙げ,この要件について,最高裁平成10年4月8日判決は,

わが国の裁判所から見て,その外国裁判所に管轄があると積極的に認められる必要があるとの判断をしました。

当該外国判決が,被告所在地を原因に管轄を認めて判決を下したものであれば,わが国の裁判所も,その外国裁判所に管轄があるか否かは容易に判ります(上記最高裁平成10年4月8日判決はそのような事件です)。

ところが,外国の裁判所が不法行為を原因として管轄を認め,内容審査の上不法行為を原因として判決を下したものであれば,わが国の裁判所から見て,その外国裁判所に管轄があるか否かは一義的にはわかりません。

不法行為の有無という内容の再審査をしなければならないはずです。

しかし,それをすれば,現民事執行法24条4項に違反します。

⒝ 国際裁判管轄における直接管轄について

外国にいる者を被告として,不法行為を請求原因とする訴訟をわが国の裁判所に提起する要件(直接管轄)が何かについては,最高裁平成13年6月8日判決が判断を示しています。

この判決は,ウルトラマンの著作権を巡る訴訟であったので,俗にウルトラマン事件といわれています。

この最高裁判決の原審では,管轄要件として,管轄の存在をあると仮定するのでなく,原告が,不法行為の存在について一応の証明をする必要があるとの判断を示しました(一応の証明必要説)。

しかし,一応の証明とはどのようなものかがはっきりしません。

そこで,最高裁判決は,原告は,不法行為の客観的事実関係,即ち,①原告の被侵害利益の存在,②原告の被侵害利益に対する被告の行為,③損害の発生,④②と③との事実的因果関係の主張・立証が必要であるとの趣旨の判断をしました。

不法行為の要件のうち,主観的な要件である故意過失,違法性,相当因果関係の立証はいらないが,上記の客観的事実の立証は必要との立場です。原審とは違い,立証要件は絞るが,その絞ったものについては通常の証明が必要と判断したのです。

⒞ 従前の理解

A社が提起した執行認容訴訟事件の前までは,最高裁は,直接管轄と間接管轄の要件について,別に考えているとの理解が一般的でした。

上記ウルトラマン事件に関与した調査官の解説でも「間接管轄に関して,不法行為地の裁判籍が問題となる場合の管轄の証明の対象及び程度について,本判決が直接妥当するわけではなく,

当該外国判決をわが国が承認するのが適当か否かの観点から,不法行為地の裁判籍により管轄を認めるため証明すべき事項等を検討する必要がある」としていました。

不法行為を請求原因とする外国判決についての間接管轄については,明確な学説もなく,下級審レベルでは,上記最高裁平成10年判決があるにもかかわらず,ほぼ無条件で外国判決の執行を認容しているものが散見されました。

相手方の主張も同様のものでした。また,相手方は,アメリカ裁判所に管轄があるとの京都大学教授の意見書も提出していました。

⒟ 客観的事実証明説の採用

私どもは,一審の東京地裁の当時から,間接管轄においても,直接管轄についての最高裁判決平成13年6月8日判決が採用した客観的事実証明説を採用すべきだと主張していました。

即ち,原告は,①営業秘密の存在,②被告のよる原告の営業秘密侵害行為,③損害,④②と③の事実的因果関係の存在の立証しなければならないところ,

原告は,大阪高裁が判断したとおり,営業秘密などないので,その立証はできていないと主張しました。

この見解に対しては,相手方から,現民事執行法24条4項に真っ向から反するとの反論がありました。

私どもは,弁論準備手続期日に,相手方に退席して貰い,裁判官の意向を確認しましたが,担当裁判官は,問題が難しすぎて答えが出ていないとのことでした。

そこで,私どもは,国際裁判管轄についての第一人者である東京大学名誉教授を紹介して頂きました。同教授に私どもの見解を述べると,同教授は私どもの見解に賛同して下さり,意見書を提出して頂きました。

このこともあり,東京地裁,東京高裁,最高裁(平成26年4月24日判決),いずれの裁判所も,客観的事実証明説に従った判決をだしました。

もっとも,上記最高裁判決は,不法行為を請求原因とする差し止めを認めたアメリカ判決の執行要件については,損害の発生は要件ではなく,「損害発生のおそれ」で足るところ,原審はその点について判断を示していないとして,破棄差し戻しをしています。

差し戻し後の東京高裁判決でも,私どもの見解を全面的に採用し,私どもが勝訴しました。この勝訴判決は,相手方の上告受理申立が,最高裁によって退けられて,確定しています。

最高裁平成26年4月24日判決については,多数の文献で解説・批評がなされています。判例タイムズ1401号157頁,判例時報2221号35頁,廣瀨孝・最高裁判所判例解説民事篇(平成26年度)180頁等々。