業務内容 - 最高裁平成26年4月26日判決について

1. 事案の概要

 上記最高裁の事案は、眉型とワックスを使用する眉のトリートメント術に関するものです。

 A社の眉型とワックスを使用する眉トリートメントは、アメリカのビバリーヒルズで大変な人気を博していました。そこで、日本のP社が5億円を支払ってA社のブランド及び技術を導入し、日本各地のデパートにサロンを開設しました。ところが、その導入に関わった担当者がP社に対する不満等を理由にP社を退社、自らR社を設立して眉型とワックスを使用する眉のトリートメントを施術するサロンを開業しました。P社はR社の取締役らに対し、営業秘密侵害を理由に損害賠償と技術使用の差し止めの訴訟を起こし、A社もまたアメリカで、R社及びR社の取締役らに同様の裁判を起こしました。

 大阪地裁では、P社の営業秘密侵害の主張が認められて、R社の取締役らは敗訴しました。私は、この一番判決敗訴後にR社の取締役らから本件を受任しました。大阪高裁で、私はA社の技術はありふれたものであり営業秘密など存在しないこと、P社の営業秘密は、欧米人の細い顔用に作られたA社の眉型を、顔の平べったい日本人にどうごまかしながら使うかという点だけにあること、R社はA社の眉型を使用していないから営業秘密侵害など存在しないと主張・立証しました。

 大阪高裁は私の主張・立証を全面的に受け入れ、R社側勝訴。同判決は最高裁でも維持されました。ところが、A社がアメリカで提起した訴訟については、私の前任者のアドバイスによりR社側は期日に欠席し、この結果R社側は敗訴、この判決が確定してしまいました。そこでA社は、アメリカの確定判決の執行を東京地裁に求めてきたのです。

2. 管轄について

(1)

 さて、一般論から説明します。原告が被告に訴えを提起した場合、裁判所はその裁判所に管轄があると判断した場合に初めて、内容の審査に入ります。管轄が無ければ、訴えは却下されます。

 管轄を決める基準となる管轄原因は、原則的に被告の所在地です。ただ管轄原因は被告所在地以外にもあって、例えば不法行為に関する訴訟については、不法行為地の裁判所にも管轄があります。不法行為地管轄については、本来不法行為があったか否かという事件の内容審査に立ち入らなければ、その裁判所所在地が不法行為地であるのかどうかわからないはずです。国内事件の場合は、訴状にそれなりの主張があれば当該裁判所が不法行為地であると仮定して、裁判所は内容審査に入ります。それでもさしたる不都合はないとの判断があるからです。

 しかし、当該裁判所が不法行為地であると仮定する考え方は、外国にいる者を被告とし不法行為を請求原因として日本の裁判所に訴える場合には、被告に大変な負担を強いることになるので、適用されません。

(2)

 外国の判決は、民事訴訟法118条1号ないし4号の要件があれば、わが国での強制執行が許されます。上記の要件さえ認められれば、問題となっている外国判決の再審査は許されません(民事執行法24条2項)。当該外国判決を再審査することとなれば、外国判決の執行認容という法制度の意味がなくなるからです。

民事執行法118条の要件のうち、1号は「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。」を挙げています。この要件について最高裁平成10年4月8日判決は、わが国の裁判所から見て、その外国裁判所に管轄があると積極的に認められる必要があるとの判断をしました。

当該外国判決が、被告所在地を原因に管轄を認めて判決を下したものであれば、わが国の裁判所も、その外国裁判所に管轄があるか否かは容易にわかります。上記最高裁判決はそのような事案です。ところが、外国の裁判所が不法行為を原因として管轄を認め、内容審査の上不法行為を理由に判決を下したものとなると、わが国の裁判所から見れば、その外国裁判所に管轄があるか否かは一義的にはわかりません。不法行為の有無という内容の再審査をしなければならないからです。しかし、それをすれば、民事執行法24条2項に違反します。

3. 国際裁判管轄における直接管轄について

 外国にいる者を被告として、不法行為を請求原因とする訴訟をわが国の裁判所に提起する要件(直接管轄)が何かについては、最高裁平成13年6月8日判決が判断を示しています。この判決は、ウルトラマンの著作権を巡る訴訟でしたので、俗にウルトラマン事件と言われています。

 この最高裁判決の原審では、管轄の要件として、管轄の存在をあると仮定するのではなく、原告側が不法行為の存在について「一応の証明」をする必要があるとの判断を示しました。(いわゆる一応の証明必要説)。しかし、「一応の証明」とはどのようなものなのかはっきりしません。

 そこで、最高裁判決は、原告が不法行為の客観的事実関係を主張・立証することが必要であるとの判断をしました。すなわち、①原告の被侵害利益の存在、②原告の被侵害利益に対する被告の行為、③損害の発生、④ ②と③との事実的因果関係の主張・立証が必要であるとの趣旨です。不法行為の要件のうち、主観的要件である故意過失、違法性、相当因果関係の立証はいらないが、上記の客観的事実の立証は必要だとの立場です。原審とは違い、立証要件は絞るが、絞ったものについては、通常の証明が必要であると判断したのです。

4. 直接管轄と間接管轄の要件について

 今般私が担当した事件以前では、最高裁は、直接管轄と間接管轄の要件について別々に考えているとの理解が一般でした。

 上記ウルトラマン事件に関与した調査官の解説でも「間接管轄に関して、不法行為地の裁判籍が問題となる場合の管轄の証明の対象及び程度について、本判決が直接妥当するわけではなく、当該外国判決をわが国が承認するのが適当か否かの観点から、不法行為地の裁判籍により管轄を認めるため証明すべき事項等を検討する必要がある」としていました。

 不法行為を請求原因とする外国判決についての間接管轄については、明確な学説もありませんでした。下級審レベルでは、上記最高裁平成10年判決があるにもかかわらず、ほぼ無条件で外国判決の執行を容認しているものすら散見されました。今回の事件での相手方の主張も同様でした。相手方は、本件はアメリカの裁判所に管轄があるという山本克己京都大学教授の意見書も提出しています。

 しかし、私は一審東京地裁当時から、間接管轄においても、直接管轄についての最高裁平成13年6月8日判決が採用した客観的事実証明説を採用すべきであると主張していました。すなわち、原告は①営業秘密の存在 ②被告による原告の営業秘密侵害行為、③損害、④ ②と③との事実的因果関係の存在を立証すべきであるのに、営業秘密とその侵害行為の立証が出来ていないと主張したのです。これはすでに大阪高裁が営業秘密など存在しないと判断した通りで、ここでもその立証が出来ていなかったからです。

 この見解に対しては、相手方から民事執行法24条2項に真っ向から反するとの反論がありました。

 私は、弁論準備手続期日に裁判所の意向・見解を伺いたいと申し出たところ、裁判官も本件は問題が難しすぎて、答えが出ていないとの回答が返ってきました。

 そこで、私は国際管轄問題の第一人者である高橋宏志東京大学名誉教授に面会を求め、私の見解を聞いていただきました。すると、高橋名誉教授も私の見解に賛同され、私の見解を支持する意見書まで書いてくださいました。このこともあって、東京地裁、東京高裁、最高裁、いずれも私が主張した「客観的事実説」に従った判決を下したのです。

 なお、上記最高裁判決は、不法行為を請求原因とする差し止めを認めたアメリカの判決を執行する要件としては、損害発生は必要ではなく、「損害発生のおそれ」で足りるが、原審東京高裁はその点についての判断を示していない、として破棄差し戻しをしました。この差し戻し審の東京高裁でも「損害発生のおそれ」につき相手方の立証不十分だとして、当方が勝訴しました。現在本件は、相手方が再度最高裁に上告中です。